名品を味わう【重要刀装具】無銘:楽寿|雨龍透渦巻文散大小鐔
こちらの大小鐔は肥後金工:細川家旧蔵と伝えられている肥後金工・神吉楽寿の鐔です。
楽寿は江戸時代後期から明治時代の金工で細川家に仕えておりました。楽寿の祖父・忠光の時に藩命により林家の秘伝一式を相伝し、それ以降神吉一家は春日派(林派)の作風復活に努めます。中でも神吉家三代目の楽寿は金象嵌において同じ肥後金工林又七の再来と言われるほどの技量を持つ金工として名をはせました。
それでは名人楽寿の名品、雨龍透渦巻文散大小鐔をクローズアップで見てみましょう。
【古美術を味わう】感じるポイント その1
龍は古来より強さの象徴でありまた吉祥のシンボルでした。また龍、麒麟、鳳凰、亀を合わせて四瑞と称し龍は天子の象徴ともされています。このような理由から龍がモチーフとして用いられるときは強いものの象徴として扱われることが多いといえます。
実際龍の代表的な図柄として挙げられる倶利伽羅龍、剣呑龍などは勇ましい龍の様子で描かれています。
一方この雨龍透渦巻文散大小鐔の雨龍はなんだかかわいらしい。見ていると微笑みたくなるような表情です。細部をじっくり観察してみると彫込象嵌という手間がかかり、名工林又七や楽寿以外にあまり見られない象嵌が鐔全体、そして耳から縁にかけてびっしりと使われています。驚くほど手間がかけられた一品です。どうぞ手に取るようにじっくりご堪能下さい。
デザイン |
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【古美術を味わう】感じるポイント その2
技 法 |
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法量・竪長さ | (大)8.3㌢、(小)7.6㌢ |
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法量・横長さ | (大)8.2㌢、(小)7.5㌢ |
法量・耳厚さ | (大)0.5㌢、(小)7.6㌢ |
品質 形状 | 竪丸形、鉄鍛目地、地透、彫込象嵌、丸耳、小柄櫃孔、笄櫃孔仕立 |
時 代 | 江戸時代後期 |
楽寿はこの渦巻文を好んでいたのか楽寿の傑作のひとつ瑞雲透し・渦巻象嵌鐔などほかの鐔にもこのモチーフを用いています。
雨龍
この雨龍とは龍に成長する前の子供龍で角や鱗を持っていません。
龍には5つの階級があるといわれており、最上位ランクは龍・蛟・應・蚪・璃と分類されています。中国の短編小説集『述異記』(460~508)によると「泥水で育った蝮(まむし)は五百年にして蛟(雨龍)となり、蛟は千年にして龍(成龍)となり、龍は五百年にして角龍(かくりゅう)となり、龍竜は千年にして応龍になり、年老いた応龍は黄龍と呼ばれる」と雨龍 → 成龍 → 角龍 → 応龍 → 黄龍と5段階の成長の様が記述されています。
龍のランク最下位のこの雨龍は璃龍(ちりゅう)とも幼龍(ちりゅう)とも呼ばれ、日本では刀装具だけでなく、家紋、着物などのモチーフとして古来より親しまれてきました。また民間信仰の中にも雨乞いの象徴としてたびたび表れてきました。
一方、龍の伝説の起源である中国ではこの雨龍の文様はあまり使われていないそうです。中国に於いて龍は霊獣であり神霊視されており、また天子の象徴でもあるため子供の雨龍は弱々しく感じられ好まれなかったのかもしれません。
中国と日本と比較することで感じられるお国柄、そんなことに思いをはせるのも古美術品の楽しみの一つです。