謹賀新年2019年~島津家の槍
本年も変わらぬご愛顧賜りますようお願い申し上げます。
猪と刀装具
さて、今回2019年初記事ですので干支の猪にちなんだことを書こうと思います。
鐔や刀装具には動物や植物に始まり故事成語から歌舞伎の題材と幅広く多くの題材が用いられて、刀装具初心者の私は驚くこともしばしばですが、こと猪に関しては同図柄はほとんど見られません。
猪というとやはり『猪突猛進』や『猪武者』『猪見て矢を引く』などの言葉が思い浮かびますが、
これらの意味を考えるとどれも向こう見ずに突進するイメージです。
ですので、冷静さが求められる戦場で身に着ける武具のモチーフとしてはあまりふさわしいとは言えないでしょう。
猪目とは
ところが、猪に由来したモチーフなら鐔などに使われています。
それが猪目(いのめ)と呼ばれるハート形に似た猪の眼のモチーフ。
最初に目にした時、武具にハートなんてかわいいと勘違いしたのですが、日本古来からの伝統ある図柄だそうです。
大和国長谷寺のホームページによると魔除けや福を招く護符の意味合いがあり、伝統的な日本建築には必ずと言っていいほど使われているそうです。
一例をあげますと、屋根の合わさった妻の部分を隠すために作られた飾り板を懸魚(ケギョ)と言いますが、この猪目が使われた懸魚がよく見受けられます。
懸魚という名前から想像がつくようにそもそも水に縁のある魚の形を建物を火災から守る火除けのまじないとして用いたのが始まりとされています。
猪は仏教の守護神であり、火の神様と言われる摩利支天の神の使いであることから、魚同様火災を防ぐシンボルと考えられてきました。
江戸時代、武家では亥の月亥の日に暖房器具、こたつを出すと火災にあわないとされ、今の11月(旧暦10月)の亥の日に火災から身を守る意味合いを込めてこたつを使い始めていたそうです。
この猪目モチーフ、寺社仏閣の猪目懸魚や金具だけでなく透し鐔のモチーフとしても使われています。
今年の干支にちなんだ図柄として探しながら寺社仏閣、美術館巡りをしてみると楽しめるかもしれません。
(上の写真は島津家の槍の柄)
こちらの尾張鐔は室町中期、応仁・文明のあたりに作られた鐔で大きな猪目と星を透かした明るくおおらかなデザインです。
シンメトリーのバランスの取れたこのデザインは今見てもはっと目を引く普遍的な心地よさをもつ鐔と言えるでしょう。