「刀に穴を空けるなんて、強度が落ちてしまうのでは?」
「向こう側が透けて見えるけど、なぜこんな飾りがついてるの?」
博物館などで「透かし彫り(すかしぼり)」が施された刀を見たとき、不思議に思ったことはありませんか?
分厚い鉄の刀身をくり抜く技術は、美しさを求めた装飾のように見えます。しかし、そこには美しさだけでなく、刀をより実戦的にするための工夫や、武士たちの切実な願いが込められているのです。
本記事では、見る角度によって表情を変える、透かし彫りの意味や背景の楽しみ方を解説します。
刀の鋭さと軽さを両立させる伝統技法
透かし彫りとは、金属をくり抜いて模様を描き、透けて見えるようにする技法を指します。法隆寺の玉虫厨子(たまむしのずし)にも見られる伝統技法が使われる理由は、刀の軽量化です。
鎌倉時代、相州伝の刀工たちは、頑丈で折れにくい刀を作るために刀身を厚くしました。しかし、厚くすれば当然、重くて扱いにくい刀になってしまいます。
そこで考え出されたのが、刀身の中央をくり抜く透かし彫りでした。不要な部分を削ぎ落とし、強度を保ったまま軽くする工夫は、無駄を徹底的に省いた手法といえるでしょう。
鉄に刻まれた武士の願い
透かし彫りには、単なる軽量化以上の意味も込められています。彫られた模様の多くは、龍が剣に巻き付いた倶利伽羅(くりから)や、神仏を表す梵字(ぼんじ)といった宗教的なモチーフです。
戦場は死と隣り合わせの世界です。武士たちは、自分の命を預ける刀に神仏の助けを求めました。 刀身をくり抜いて刻まれた模様は、勝利を強く願う心や、無事を信じる人々の切実な気持ちを表現したものでもあります。
透かしの向こうに見える景色には、かつての武士たちが抱いた心の拠り所が重なっているのです。
一度のミスも許されない職人の技術
透かし彫りを鑑賞するときに想像すべきポイントは、これを作った職人のプレッシャーです。 刀身への彫刻は刀が鍛え上げられ、焼き入れが終わった後の最終工程に近い段階で行われます。
もしここで手元が狂い、刃に亀裂が入ったり穴の位置がずれたりすれば、それまでの苦労はすべて水の泡です。一瞬のミスで、一振りの刀を消してしまう可能性があります。
硬い鉄を、ノミひとつで正確にくり抜く技術。その繊細な仕事からは、刀工や彫師たちの並外れた集中力と、張り詰めた緊張感が伝わってくるはずです。
まとめ
透かし彫りは、単なる装飾ではありません。より速く刀を振るための工夫や、身を守るための願い、そして職人の魂の結晶です。
展示室で透かし彫りのある刀に出会ったら、ぜひ透かしの向こう側を覗き込んでみてください。くり抜かれた空間の向こうに、当時の武士の気配や職人のこだわりを感じられます。
今回の内容を思い返しながら鑑賞すると、鉄が持つ可能性と美しさに、改めて心を奪われるでしょう。



